退職金についてはよく「ほぼ非課税で受給できる」と言われます。退職金は税務上、退職所得として扱われ、
非常に大きな所得控除が用意されているというのがその理由となります。具体的な所得控除額は、勤続年数が20年を
超えるときであれば、原則として800万円+70万円×(A-20年)(Aは勤続年数)となります。よって例えば勤続30年であれば、
所得控除額は1,500万円。中小企業の退職金であればこの控除額を超えることは稀でしょう。そして退職金の額が
退職所得控除額を超える場合であっても、その超えた額の2分の1に相当する額に対しての課税となりますので、
退職所得については税制面でかなり優遇されていることが分かります。
言い換えれば、なんらかの事情で退職所得控除が適用されないことになってしまうと、
非常に大きな負担が発生するということになります。ここで問題になるのが、定年の引き上げ時の取り扱いです。
近年、深刻な人材難の対策として、65歳などへの定年年齢の引き上げを行うような事例が増えています。
先日、国税庁に定年引上げ後、退職金を旧退職年齢である60歳の時点で支給する場合の退職所得控除適用の可否に関する
疑義照会が掲載されました。
[疑義照会の内容]
当社は、人口減少社会の到来による新規採用の困難さを打開し、安定的に雇用を確保しながら事業を前進させる
ために、就業規則を改定し、2019年4月1日より従業員の定年を60歳から64歳に延長することを決定しました。
この定年延長に伴い、賃金規則を改定の上、従業員の入社時期にかかわらず、一律で延長前の定年(以下「旧定年」と
いいます。)である満60歳に達した日の属する年度末の翌月末までに退職一時金を支給することを予定しています。この退職一時金は、引き続き勤務する従業員に対して支給するものであり、本来の退職所得とはいえま
せんが、所得税基本通達30-2(5)《引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの》に定める給与に
該当し、退職所得として取り扱ってよいか照会いたします。
これに対する回答は、定年延長前から入社していた社員については、旧定年時点で退職金を支給したとしても
退職所得控除の適用ができるとした一方、定年延長後に入社する従業員に対するものについては、既に定年の延長が
就業規則等で決定した後に雇用されることから、雇用の開始時点で引き上げ後の定年を前提として採用されるため、
所得税基本通達30-2(5)は適用されず、退職所得として取り扱われるとは限らないとしています。
今後、定年の引き上げを検討される企業も多いのではないかと思いますので、その際には参考にしてみてください。
なお、この回答内容は、熊本国税局としての見解とされていますので、実際に同様の取り扱いを行う場合には所轄の
税務署や顧問税理士等に確認の上、対応されることとをお勧めします。